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ぎりぎりの告知ですが、2023年7月9日札幌コンベンションセンター文学フリマ札幌8に参加します!

当日は新刊の他に既刊、無配も多数そろえてお待ちしています!

新刊はこちら



カメラ少女映(ウツス)の物語を、文、金川ろろ、小糸あきの3人で紡ぎます!
文の漫画はやっと仕上がり今回完全版を掲載!

金川と小糸は新作短編です!

それぞれのサンプルを続きから少しご紹介しますのでぜひどうぞ!
またイベント終了後は通販、委託もかんがえておりますのでよろしくお願いします!


文:漫画




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死神じゃないあの子
金川ろろ
 吹きさらしの階段の踊り場から顔をのぞかせると、地面はずいぶん遠く見えた。
 でも、こわくなんかないんだから。
 冬子はひとりで力強く頷いた。
 今日、たった今、自分の手で人生を終わらせる。その決意は揺らがない。
 こんな惨めな思いで生きながらえたくないし、私をないがしろにした人たちに少しでも後悔させてやるんだ。
 今のうちに、誰か来ないうちに。
 冬子は口の中でなむあみだぶつなむあみだぶつと念仏をとなえ、靴を脱いで揃えて置いた。
「――どうしてこういう時、みんな靴を脱ぐのかな?」
 突然背後から声をかけられ、冬子は飛び上がった。
「だ、誰?」
 階段を上がって来る足音も、どこかのドアが開く音も聞こえなかったのに、そこには少女が立っていた。
 高校生くらいだろうか、涼やかな顔立ちの、すらりとした少女だ。束ねた髪が、風に踊っている。父が持っているのとよく似たカメラを手にしていた。
 カメラなんか持ち歩いてる女の子って、珍しいわね。
 気が逸れた、のかどうか、死のうとしていたことをうっかり忘れた。現実から離れて、夢でも見ている感覚になったというのが正確なところかもしれない。
 少女はすたすたと冬子の隣に歩み寄り、下をのぞき込んだ。
「ここから飛び降りようとする勇気の方がすごいけど。思い詰めてるとそうでもないのかな」
 カッと頬に血が昇った。
「な、何よ!」
 こんな土壇場で婚約破棄された私の気持ちなんて、誰にもわかりゃしない。
 就職して五年目、どうせ腰掛けなんだから、売れ残るぞ……いろいろな言葉をかいくぐってきて、めでたい寿退社を目前にして心変わりされた。もう職場にも戻れないし、両親も笑いものになって肩身のせまい思いをしている。せめて、幸せな核家族が詰め込まれたようなこの新興団地の一角で、人生終わらせてやるのよ。
「……だから、止めないでちょうだい」
「止めるつもりもないけど」
「止めるつもりもないなら、あっちに行ってよ……あ、ひょっとして死神か何かなの?」
 少女は大きなため息をついて、肩に掛けていた無骨な黒いカバンにカメラをしまいこんだ。
「死神よばわりもいつものことだけどね。――でも、これだけは言っとく。あなたの時は、まだまだ終わらないの」
「えっ……」
「見事ここから落っこちて、それであなたの時が終わるならまだマシ。でも、残念ながら」
 少女は何かを探すように、ぐるりと辺りを見回した。
「死神すらここにはいない」
 今まで感じていなかった不安が、黒雲のようにたちまち心に広がってゆくことに気づいた。
 ここから落ちても、時が終わらない?
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映(ウツス)とライカ ~ウツスとツクルが出会った話~   小糸あき 

「オレの名前は作(ツクル)だよ。お嬢さんは?」

男は、映(ウツス)に向かってそう言った。ウツスは小さく頷くと、男にいつものセリフを投げかかる。

「写していい?」

ツクルと名乗った男は、訝しげな顔をして、ジッとウツスを見つめた。

ツクルがOKと言ったわけでもないのに、ウツスは自分の瞳の高さにボクを持ち上げ、構える。

ボクの名前はライカM3。カメラだ。ウツスがこの世界のすべてを映し出すための道具であり、相棒だ。

 

「そのカメラでかい? 随分とクラシックなタイプだね。キミはほかの子みたいにスマホでカシャカシャしないのかい」

「あたしの名前はウツス。写していい?」

ウツスはツクルの質問には何ひとつ答えず、ボクでツクルを写し始めた。

「いや、もう写してるじゃないか」

ツクルは怒るでもなく、苦笑しながらゆっくりと公園のベンチに腰掛けた。

ウツスとツクルがいるのは、もう随分と古びてしまった小さな公園だ。木目が擦り切れたベンチと、ペンキのはげた滑り台。今はもうほとんどみなくなった回転式の遊具があったが、ここしばらく使われた形跡はない。ものの十分も歩けば埠頭に出ることのできる海岸沿いの近くだった。

ボクとウツスは今日、海沿いの小さな町に来ていた。登校中に、「今日は海を見たい」と、唐突に言い出したウツスが、向かっていた中学校から反転して電車に飛び乗り、今に至る。

 

そして海が見える通りをぶらぶらと歩いていたら、公園が見つかり、ウツスはその公園にいる野良猫をかまって遊んでいた。そこにふらりと現れたのがツクルだった。

白髪の混じった髪に、よれよれのポロシャツにズボン。典型的なさえないタイプの中年の男だった。特段写真にとって面白い相手とも思えない。

なのにウツスは構っていた猫からツクルに近づき、例のセリフ「写していい?」をツクルに向かって投げかけたのだ。ツクルはちょっと驚いた顔をしたが、すぐに微笑むとウツスに向かって名を名乗り、挨拶をしたーーんだけど。

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